Third Eye

第8回 『結局、「いい人」が生き残る  ~推薦してもらえる人になるための5つの条件』

サードアイ 2026.7.29

「世の中の変化が速くてついていけない」とよく言われますが、そんなセリフを言っている暇もないぐらいに速い変化が起きています。いくら努力や勉強をしても解決できない問題や不安が、夏の雑草のように出てきて私達を悩ませます。

そんななか、今回のワールドカップで1つのヒントを見つけました。

若手選手の活躍が目覚ましいなか、注目を集めていたのが、39歳の長友佑都選手が5大会連続で代表に選ばれたことです。長友選手を選んだことに批判もあったようですが、なぜ起用されたのかは、予選リーグのスウェーデン戦で明らかになりました。グループリーグ1位突破を狙っているのに、試合は1対1からの膠着状態で動かない。そのタイミングで、森保一監督は長友選手を投入しました。ムリして点を取りに行ってケガをしたり、失点をしたら元も子もないので、みんなを落ち着かせるために投入したとのこと。   

勝っても浮かれないようにと釘を刺したり、明るい雰囲気でみんなを鼓舞したり、長友選手にしかできないチームへの貢献でした。

技術的にはほかにも優れている人は大勢いるのに、なぜか選ばれる人。

今、ビジネスの現場でもそういう例が増えています。

私達はどうすればいいのか?

 今ほど、この問いが突きつけられているときはないでしょう。

 その答えは簡単です。「幸せになればいい」のです。

 今回のテーマである「いい人」とは一見、関係なさそうですが、私が言いたいのは、「いい人にならなければ幸せになれない」ということです。幸せの形はみんな違いますが、共通するのは一人では幸せになれない点です。「人を幸せにしないと、自分も幸せになれない」と思います。

今、私が最も懸念しているのはAGI(汎用人工知能)です。AGIとは、人間と同等レベル、もしくはそれ以上の知的能力を備える人工知能のこと。そして、AIは自分で設計してAIをつくり始めるようになってきました。こうなると、何が起きるのか予測不能です。すでに、OpenAIやAnthropicなどの生成AIをつくっている企業では、人間が意図しない動きをAIが勝手にするようになっていると聞きます。

今後、人間は仕事をしないでラクに生きていけるのかもしれませんし、もしくは不要物になってAIに滅ぼされる可能性もゼロではありません。私はたとえどうなっても、柔軟に対応して幸せを追求していこうと考えています。

これからの「いい人」とは

 ところで、皆さんのまわりに「いい人」はいませんか?

 仕事はできなくても、人がいい。話していて心地よい。誰にでも優しいし、親切。

 そのような人は、誰からも評判がよく、信頼されているものです。

 今まで、能力主義や成果主義は日本には根づかないと言われていましたが、それらが定着する前に終焉を迎えそうです。なぜなら、AIにより能力や成果に差がつきにくくなってきたからです。

ITエンジニアの採用を例にすると、生成AI登場前は、プログラミング試験など技術力そのものを測る評価の比重が比較的大きかったと思います。生成AIの普及後は、「技術を持っているか」だけでなく、「何を実現したい人なのか」「何かをやりきった経験があるか」を重視する企業が少しずつ増えてきました。

たとえば新卒採用で印象的だったのは、「入学した学校にダンス部がなかったが、自分がダンスをやりたかったので、自ら部を立ち上げて運営した」という学生です。もちろんそれだけで内定が決まったわけではありませんが、ゼロから仕組みを作り、人を巻き込み、継続運営した経験は高く評価されました。

AIがコードを書く時代だからこそ、人間にしかできない「構想力」「創造力」「行動力」の価値が上がっていると感じます。

それでは、これからどのような基準で人を選べばいいのか。もしくは、企業に選ばれる人になればいいのか。

その一つの目安になるのが、「推薦してもらえる人になる」ということです。

そして、どのような人が推薦されるのかを考えると、「いい人」が推薦される、という一言に尽きます。

AIによってスキル面で差がつかなくなったら、「あの人とは仕事しづらいな」と思われる人は敬遠されるでしょう。「またあの人と一緒に仕事したい」と思われるような好感度の高い人が、これからは生き残っていけるのだと思います。

私の考える「人生の心技体2.0」

私はかねてから、ビジネスにおいての「心技体」を提唱してきました。

このたび、それを個人の人生にまで広げて「人生の心技体2.0」としてアップデートしてみました。

●心:現在、AIに心や感情はありません。よりいっそう「心」に力点が置かれます。 

・夢、理念、信条、情熱、愛情

・誠実さ、謙虚さ、素直さ

・あきらめない力、レジリエンス(回復力)

・柔軟性

・好奇心

・違いを認める力、人への敬意、思いやり

・倫理観

・セルフ・コンパッション(自分への優しさ、思いやり)

・生きがい、感動 

●技:AIがより得意としているのが技ですが、当面AIを使いこなすために技は必要です。

・アイデア力

・デザイン思考(まだ世の中にない製品や、本質的な解決策を生み出すための思考)

・問いを見つける力

・コミュニケーション力

・経験、体験

・仕事以外のスキル

●体:現在、AIに体はありません。そして、何をするにも体は大切になります。

・人間関係(ビジネスとプライベート両方)、家族関係を大事にする

・適度な運動、適切な食事

・行動力

・ワークインライフ(仕事を人生の一つの要素としてとらえる考え方)

推薦してもらえる人になるための5つの条件

私から見ると、人を幸せにできる人は、「人生の心技体2.0」がバランスよく整っています。そのような人は、誰からも推薦してもらえるでしょう。

そして、推薦してもらえる人になるためには、次の5つの条件が大切だと思います。

①脱・正解主義

物事には必ず答えが1つあり、それを探して実行するのが正しいことだと信じているのが「正解主義」です。日本は学校教育で正解主義を叩きこまれているので、社会に出てからもなかなかその呪縛から逃れられません。

以前、東京外国語大学で行われた、教育心理学准教授・田島充士先生主催の講演に参加しました。講演の中心テーマは『ボーカロイドと多文化共生』です。

このとき、ボカロ P(ボーカロイドを使用して音楽作品を自主制作するアーティスト:「ボーカロイド・プロデューサー」と呼ばれる)のr-906氏をゲストに招き、楽曲をつくるうえでのスタンスを伺っていました。

r-906氏はこう語っていらっしゃいました。

「どの見方が正解といえるような証拠も、私は提供していません。リスナーがどんな解釈をしてもかまわない(中略)。そんな解釈の自由を楽しめる作品づくりを意識しています」(『正解主義に抗うボーカロイドアート:ボカロ P・r − 906 と考える多文化共生を拓く対話の可能性』より引用)

これこそ、正解主義に抗うスタンスだと思います。

この根底には、安易に他人の提示する「正解」に飛びつくのではなく、時間をかけて自分なりの解釈を試みるプロセスそのものを楽しんでほしいという願いがあるそうです。

また、「ネガティブ・ケイパビリティ(Negative Capability)」という言葉があります。これは最近できた言葉のように感じますが、19世紀の詩人ジョン・キーツが考えた概念で、「不確実なことや曖昧な状況を受け入れて、すぐに結論を求めない力」という意味で使われます。

ジョン・キーツは25歳の若さで結核で世を去っているのですが、複雑な家庭環境で育ったので、ネガティブ・ケイパビリティという考えが生まれたのかもしれません。

AIの普及によって、多くの人は「分からない」状況に耐えられなくなってきています。

問題の答えがすぐに分からなくても、「分からない」という状況を受け入れる。目的を達成するために、常に最短の解決策を選ぶのではなく、遠回りすることができる人は、AIに対抗できるのではないかと思います。

②人の違いを受け入れられる

私は田島充士先生と共著を出させていただいている間柄です。

田島先生が異文化コミュニケーションにおいて重視されている「対話(ダイアローグ)」は、「仲良く話し合うこと」や「意見の合意形成」ではありません。ロシアの思想家バフチンや心理学者ヴィゴツキーの理論をベースに、「他者との異質さに向き合い、自分自身の意識を揺さぶるプロセス」が対話だと位置づけています。

一般的なコミュニケーションでは「お互いに分かり合って一つになろう」としがちですが、田島先生の重視する対話は逆です。「あなたと私は違うままで、どう付き合い続けるか」という、独自性を保ったままでの相関関係を大切にします。

このスタンスは、これからの時代、ますます重要になって来るでしょう。

とくに今は若手社員とのコミュニケーションを取るのが難しく、新入社員のミスをとがめただけで、「パワハラを受けた」と言われることもあるぐらいです。

「相手と自分はまったく違う人間だ」という認識を持っておかないと、相手のことを受け入れられないし、相手にも受け入れてもらえません。

③義理と人情を重んじる

義理と人情は、今では昭和時代を舞台にしたドラマのなかでしか存在しないように感じますが、推薦してもらえる人は、間違いなくこの要素を持ち合わせています。人を裏切らない、恩を受けたら必ず返す。そのような人として当たり前のことを重んじている人は、まわりから絶大な信頼を寄せられています。

こういうと、学生時代からの人脈が大切なのか、社会人になってからの関係が重要なのか、と考えるかもしれません。

私としては、学生時代か社会人以降か、という区分で考えるよりも、あらゆるステージで築く人間関係を大切にできることが重要だと思います。人との縁は、いつどこで将来の機会につながるか分かりません。だからこそ、目の前の一人ひとりに誠実に向き合い、信頼を積み重ねる姿勢が大切です。

推薦とは、単に能力を評価されるだけではなく、「この人なら自分の名前をかけて紹介できる」と思ってもらうことです。その土台になるのは、日々の人間関係の積み重ねだと思います。

④「また会いたい」と思ってもらえる

今、リファラル採用(社員に知人・友人を紹介してもらう)やアルムナイ(元社員を再雇用)採用が増えています。

それはつまり、「この人にまた会いたい」と思われているということです。

どんなに能力があっても、性格に難ありでは「一緒に働きたい」とは思われないはず。やはり、誠実さ、謙虚さ、人への敬意といった本質的な要素がなければ、人に信頼してもらえないでしょう。

⑤「真の優しさ」を持つ

AIはとても優しく対応してくれます。これは形だけで、真の優しさではありません。いわば「フリ」です。なぜならば、愛情がないからです。

真の愛情を持って、初めて真の優しさが生まれるのだと思います。

真の優しさはそのときによって変わっていくでしょうが、それを考えながら人と向き合っていくことがリアル人間にできることです。

なぜ、いい人になれないのか

それにしても、誰もがいいことをして、「いい人」になりたいと思っているのに、なれないのはなぜなのでしょうか。

 それは社会が人を追い込んでいるからかもしれません。会社では常に成果を求められ、SNSでは何気ない投稿が炎上することもある。さらにAIまで登場し、心もお金も時間も余裕がなくなっています。電車で小競り合いが起きるのも珍しくなく、お互いに他人を思いやる余裕がなくなっているのでしょう。

 そんななかで「いい人」になるのは、決して簡単なことではありません。

「いい人」は損するだけだと思う方もいるでしょう。損をしたくない、傷つきたくないと思うのは防衛本能の表れです。

しかし、定年後も自分の人生は続くのだと考えると、「いい人」であるほうが絶対に得です。「いい人」は仕事を離れても、まわりに人が集まって来ますから。

 今が「いい人」になるラストチャンスなのかもしれません。そのために必要なのが、この5つの条件なのです。

今回のサードアイ あらゆる人間関係を大切にする

私はヘッドハンターとして全国を飛び回っているのですが、その合間に、全国各地のうなぎ屋に足を運ぶのを生きがいにしています。

Instagramでうなぎについて投稿しているのですが、先日、あるうなぎ屋のオーナーより、Instagramを通じて突然ご連絡をいただきました。店主は、鰻界のインフルエンサー数名に声をかけていたそうで、その一人として私を選んで、お店に招待してくださいました。

この出来事には驚くべき偶然が重なっていました。招待された他の一人は、私の知人だったのですが、後日、彼からさらに深い縁を聞くことになります。

実は店主の曾祖父は、以前、財界トップを務められた方の家系であり、開店にあたっての技術指導は、私の「鰻の師匠」でもある方から受けられたとのことでした。

後日、改めてお店に伺い、店主と懇談した際には、単なる趣味の話に留まらず、私のInstagramを通じた価値観や社会観について深く議論を交わしました。

まさに、点と点がつながり、線になっていく感覚です。

今まで培ってきた縁が、まったく別の場所で一つに繋がった瞬間であり、日頃から人間関係を大切にしてきて本当によかったと実感しました。

後日、このお店で政財界の知人を集めて「鰻会」を開いたのですが、「仕事」と「趣味」を切り分けるのではなく、あらゆる場面での誠実な積み重ねが豊かな人の輪を作っていくのだと改めて感じています。

人とのつながりを疎かにしない人が、推薦してもらえる人になるのは間違いないでしょう。

当たり前のことですが、推薦してもらった期待と信頼には全力で応えなければなりません。そのために日々進化し続けることこそ、人間のできる最上の行為ではないでしょうか。

2026年7月29日

武元康明